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    ヌーヴェル・バーグ、中島哲也 —「作り手も観客と同じ目の高さから出来事を体験していくという作り方」—

     以前からよく話題に上るリアリズムについて。勉強中、次のような一節を見つけた。1950年代フランス映画、ヌーヴェルバーグの解説で。



     それまでのような、映画に現れるすべての出来事を作り手が熟知し、観客に手際よく説明するという物語ではなく、作り手も観客と同じ目の高さから出来事を体験していくという作り方で、そのなかに現実の人間の実感、心理のあいまいさ、不可解さをにじませた。彼らはアンドレ・バザンのリアリズム論、アレクサンドル・アストリュックのカメラ万年筆論、イタリアのネオレアリスモなどから影響を受け、主観と外界との関係から心の中に迫るリアリズムを探求した。
    (出口丈人『映画映像史 —ムーヴィング・イメージの軌跡』小学館, p.126–127)(傍線は執筆者)



    古典ハリウッド的な「語り」のアンチテーゼ。1950年代のフランス映画。この映画美学も、これまでに話題に出た吉行淳之介やアロノフスキー風のリアリズムか。小生の好きなタイプの表現。

     アンドレ・バザンの書籍でも読んでみようか、と、書籍リストに彼の名前をメモしている最中、面白いことを思い出した。本棚から湊かなえ『告白』の文庫本を取り出す。その巻末に、同名の映画を監督した中島哲也のインタビューがのっているはず。見つけた。『告白』映画化に対して、彼は次のように語っている。



    —では、最初から映画化を意識して?
    中島 いえ、必ずしもそうではありません。ただ、読み終わった後も、この小説に出てくる登場人物達・・・女教師の森口悠子はもちろん、罪を犯す少年A、B、そしてその親なんかがずっと頭に残っていました。(中略)登場人物達を映画に撮ることで、もっと彼に近づきたいと思ったんです。(中略)この作品を脚本化して、俳優さんに演じてもらうとなると、それぞれが僕にもっといろんな語りかけをしてくるだろうし、最初に読んだときには気づかなかった発見というのもあるのではないか、と思いまして。

    (湊かなえ『告白』双葉文庫, p303—304)



    ヌーベルバーグの引用風に言えば、「作り手も観客と同じ目の高さから出来事を体験していくという作り方」を、中島哲也はしているように思う。監督が物語の全てを、初めから神のごとく知っている訳ではないのだ。作りながら知る。

     ああ。なるほど。技巧的でキッチュな演出にあふれている彼の映画に、深い人間的情感が込められているのは、そういうことか。登場人物の理解を求めて、監督は、役者に「生の演技」を強いるわけだ。監督は役者を通したリアル語りかけを求めているのか。だから中島哲也は役者に厳しいのかもしれない。

    『嫌われ松子の一生』で、私の最も好きなシーンを二つ。対位法的な音楽を背景に、中谷美紀や伊勢谷友介がリアルな「生の演技」をする。ぐっとくる。






    後者の動画において、原作の小説に、このシーンがない、ということにも注目したくなる。小説に現れた文章以外からも、登場人物を理解しようする中島哲也の姿勢とも読み取れる。そういえば『告白』にも、松たか子が、夜道を歩きながら一人で泣く、という小説にはないシーンがあったような気もするが、記憶が曖昧のため、断言はよしておこう。



     第四考を閉じる前に、些か内省的になった。
     小生は、大学演劇をしていて、脚本演出を担当することも多かったが、そういえば、「なんで脚本家なのに、自分の脚本のことわからないの?」と良く言われたものだ。今度そういわれたら、「私はフランス、ヌーヴェル・バーグの系譜を継ぐ者ですので」とでも言っておこうかな。


    西東あき

    具体的な書籍等の紹介を含め、ご意見アドバイス等があれば。
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