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    ダーレン・アロノフスキー『ノア』 —信じること

     ユダヤ系アメリカ人のダーレン・アロノフスキー監督の映画を見た直後、いつも何とも言えない寂寥感や孤独感に襲われる。未解決のまま、壁にぶつかったまま。恐ろしい。

     その冷淡なもどかしさを、先日日本公開された『ノア』においても、味わった。
     「善」と思われていたノアの行為に感情移入していたら、突然ノアが悪者になった。映画はそういう語りをする。その上最終的に括弧付きの「善」を、ノアはやり遂げられなかった。感動的な音楽。

     表面上では希望に満ちて終わる。しかし違和感。アロノフスキーのデビュー作『π』や『ブラックスワン』のラストと似た質感。

     そのなんとも言えないブラックな表現がさりげなく有ったせいか、どうもこの映画は賛否両論らしい。信仰心の厚いキリスト教徒やハリウッド的スペクタクルドラマを期待していた映画フリークの意見も最もかも知れない。聖書の記述は、もはやパロディとも言えるほど拡大解釈された訳だし、ハリウッド映画としては人間臭すぎた。けれども私は多いに楽しめた。そのブラックなリアリズムを楽しめた。
     
     何を信じていいのか分からない。信じているものが「善」なのか「悪」なのか。リアル。叙事詩的な映画であるにも拘らず、そこには現代的なリアリズムがあった。思えば生きていてすっきりした結末を迎えたことなんてない。いつも葛藤がそこにある。そもそも人生、結末なんて迎えたことがない。「善悪」なんて分からない。何を信じるべきなのか。『ノア』はそんな現実に即した、上質なリアリズム表現の上に成りたってるかもしれない。

     アロノフスキーの他の映画との関連で考えたらそれは説得させられる。不器用な人間。端から見たらそんなに思い詰める必要はないのに、自分で自分を追い込んでいく。自分が信じている感覚だけをたよりに。そんな生々しい孤独の心理ドラマが彼の映画の多くに共通する。これこそが彼の映画表現の源流なのか。「信じる」という行為への違和感か。

     アロノフスキーは、保守的なユダヤ教徒の環境で生まれ育った無神論者である。そんなパラドキシカルな彼は2011年次のように語る。

    "I was raised culturally Jewish, but there was very little spiritual attendance in temple. It was a cultural thing—celebrating the holidays, knowing where you came from, knowing your history, having respect for what your people have been through."


    ”私は文化的にユダヤ人として育ったが、寺院で精神的なことに参加することはほとんどなかった。それは文化的なことだ。祝日を祝い、何処から来たのかを知り、歴史を知り、先人がしてきたことに敬意を払うのである。”

    ここに、彼の信じるという行為への違和感の一端が読み取れるかもしれない。信仰への嫌悪感は、デビュー作『π』に、神秘主義的ユダヤ教徒の描写の中で、やや直接的に描かれてもいる。

     もしもこれと完全に同じ文脈で『ノア』が描かれているのだとしたら、それは尋常じゃないほどのブラックさを持ってるだろう。表面的にも聖書を題材にしているのだから。


     西洋人が感じる信仰への葛藤とはなんだろうか、アロノフスキーは自分の宗教観をどのように語っているのだろうか、リアリズムとはなんだろうか、『ノア』は映画製作会社に飲み込まれることなく、アロノフスキー本人の表現なのであろうか、などなど、様々な疑問を胸に、ここに記念すべき第一孝を閉じることとし、おもむろに手元の文庫本に手を伸ばす。遠藤周作『沈黙』。神は黙って見ているだけ。信じるとはなんだろうか。

    西東あき

    具体的な書籍等の紹介を含め、ご意見アドバイス等があれば。


     
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    西東あき

    Author:西東あき
    24歳(♂)
    音楽、演劇、映画、文学と猫
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